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オフィーリア〜絵画の中の女性たち

多くの芸術家によって表現されてきたオフィーリア。シェイクスピア戯曲に登場する、恋人に裏切られ父を殺されて狂気の内に死んでしまう悲劇の女性だ。 今回はこのオフィーリアに焦点を当ててみよう。

オフィーリアとその死

オフィーリアはイギリスの偉大な劇作家、ウィリアム・シェイクスピアの四大悲劇のうちの一つ、ハムレットに登場する若き貴婦人である。デンマーク王の宰相ポローニアスの娘であり、王子ハムレットの恋人であった。
ハムレットは父である先王を殺し母ガートルートを奪った現デンマーク王クローディアスに復讐するため狂気を装う。父にハムレットの様子を探るようにいわれていたオフィーリアに、ハムレットは偽りの狂気の中でもうオフィーリアを愛してはおらぬ、尼寺へいけ!と叫び、罵る。打ちひしがれるオフィーリアだが、さらに彼女を追い詰める出来事が起きる。愛するハムレットが、最愛の父ポローニアスを現デンマーク王と間違え手にかけ、殺してしまったのだ。度重なる悲しみのあまり、オフィーリアは正気を失ってしまう。ハムレットのような偽りではなく、真の狂気を宿してしまったのだ。
そして彼女は狂乱の中、川に落ちて溺死してしまう。王妃ガートルートによって語られるこのオフィーリアの死の場面は、文学における最も詩的な死の表現として高く評価されている。

描き出されたオフィーリア

ベンジャミン・ウエスト『ハムレット、王と王妃の前のオフィーリア』

美しい金髪を振り乱し、まさに狂乱の最中のオフィーリア。その目は大きく見開かれているが何も見てはいない。あまりの不憫さに顔を背ける王妃ガートルート。険しい顔つきをし、今にも席を立ってしまいそうな王。王妃の後ろに控えている侍女たちは壁に隠れながら興味深そうに様子を伺っている。好奇心を隠しきれないような表情が見受けられる。
ただ一人だけこの場で動揺していない人物がいる。オフィーリアを支えて立ち、左手を高く掲げているハムレットだ。狂乱の内にあるオフィーリアを気遣うような素振りも見せずに真っ直ぐに立っている。オフィーリアと同様にその目は大きく見開かれているが、ハムレットのその目は確実に意思を宿している。しかし彼には狂乱の恋人は目に入っていないようだ。彼の目に映っているのは復讐、それだけなのかもしれない。

オディロン・ルドン『花の中のオフィーリア』

ルドンはオフィーリアをモチーフにしたものを随分と残している。これもそのうちの一つだ。 右下にオフィーリアが見えるが、その顔は風景に溶け込むかのようにおぼろげだ。画面の中心 には色鮮やかな花々が配置されている。これは死の直前までオフィーリアが摘んでいた花というよりもルドンによってオフィーリアに手向けられた花のように感じられる。そして花の部分から左側にかけて見られる無機質な黒やグレーの色彩はオフィーリアに死が訪れたことを意味しているのではないだろうか。
全体の背景には優しい夕焼けのような色が用いられている。ルドンのオフィーリアはきっと心穏やかであるに違いない。

ジョン・エヴァレット・ミレー『オフィーリア』

オフィーリアと聞けば多くの方がこのミレーのオフィーリアの絵を思い出すのではないだろうか。まさに王妃ガートルートが語ったオフィーリアの死の場面、そのままのようである。歌を口ずさんでいるであろうオフィーリアの顔は穏やかで少しずつ水に沈んでいく姿はこの上なく美しい。細い森の描写もラファエル前派らしい写実性を持って描かれている。
この絵は多くの芸術家たちをも魅了した。
日本人でも夏目漱石が小説『草枕』の中で この絵画について言及している。
シェイクスピアの作品によって刺激された画家が素晴らしい絵画を残し、またそれに刺激された芸術作品が生まれる。最高の連鎖だ。

永遠のモチーフ、オフィーリア

その悲劇性と死の描写の美しさに惹かれずにはいられないオフィーリア。
舞台ではオフィーリアの死のシーンはなく、王妃ガートルートによって語られるのみというのも芸術家達のイマジネーションを刺激してやまないのだろう。

それぞれの心の中に、それぞれのオフィーリアがいるのだから。

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紫水晶
name. 紫水晶

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