元祖トレンチコートブランドと称される、英国の老舗ブランドである、アクアスキュータム(Aquascutum)。バーバリー同様に英国を代表する老舗ブランドであり、どちらもトレンチコートがアイコニックアイテムである点から、双璧を成す英国2大老舗ブランドと称されています。トレンチコートにエレガンスでタフなイメージを植えつけたブランドは間違いなくアクアスキュータムです。世界初となる、防水ウールの開発により特許を取得したアクアスキュータムは、ブランドとして大きく飛躍します。160年以上の歴史を持つ、英国紳士御用達ブランドであり、ロイヤルファミリー御用達の”英国の至高"と称されるブランドのアクアスキュータム。しかし。2012年にはまさかの経営破綻。現在のアクアスキュータムの状況は?
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アクアスキュータム(Aquascutum)=トレンチコート
アクアスキュータムが元祖トレンチコートブランドと呼ばれる所以
元祖トレンチコートブランドと称されるアクアスキュータム(Aquascutum)。日本ではアクアスキュータムと双璧を成すブランドの、バーバリーのトレンチコートの方が一般的には知られていますが、英国紳士はアクアスキュータムのトレンチコートを好んで着用すると言います。
日本でバーバリーの知名度が高い理由は、バーバリーが日本企業と長らく、ライセンス契約を結んでいた事が大きな理由です。
本国英国では、タフでエレガンスなイメージを持つラグジュアリーブランドとして、アクアスキュータムは浸透しています。このイメージは、アクアスキュータムのアイコニックガーメンツである、トレンチコートの影響が、大きいとされています。
トレンチコートの持つ、エレガンスでタフなイメージは、アクアスキュータムが創り上げ、英国紳士から、世界中の富裕層に広まりました。
雨の多いイギリスでも、傘を差さない事でも有名なイギリス紳士は、撥水性に優れた、アクアスキュータムのトレンチコートを粋に羽織り、ロンドンの街を闊歩しました。
雨の中傘を差さずにトレンチコートを羽織るスタイルは、英国紳士の好む”ダンディズム象徴”として若き紳士にも受け継がれます。
ダンディズムとエレガンスを体現するプロダクツとして選ばれた、アクアスキュータムのトレンチコートは、いつしか、元祖トレンチコートと称されるようになりました。
ハイテク素材が存在しなかった時代に、防水加工を施したウールファブリックを開発した、アクアスキュータムの創立者であるジョン・エマリー。世界初の防水ウールを開発した事により、アクアスキュータムのアイコニックガーメンツでもある、トレンチコートが誕生します。
水を弾くガーメンツ、つまり防水服を作る事が、できると考えた、ジョン・エマリーはブランド名を、水と楯を表す言葉の”aqua”と”scutum”を併せた造語である、アクアスキュータムとします。
このアクアスキュータム(Aquascutum)と言うブランド名には防水と言う意味が込められています。
防水を意味する言葉をブランド名に選んだ、創立者のジョン・エマリーには、画期的且つ、時代を変えるべく、新たなガーメンツを作るという意気込みが、”アクアスキュータム”というブランド名に、込められていたように感じます。
アクアスキュータムの水を弾く、トレンチコートの評判は貴族や紳士の間で急速に広まり、アクアスキュータムのトレンチコートは、紳士御用達のアウターとして、浸透していきます。
アクアスキュータムの画期的なトレンチコートはイギリス軍の間でも話題となり、1853年から勃発したクリミア戦争の際に、防寒様のコートとして、イギリス軍が正式採用し、アクアスキュータムの知名度はイギリス全土に広まります。
高い防水性と保温性から、多くの兵士の命を救った、アクアスキュータムのコートは、イギリス軍お墨付きのトレンチコートとなります。
イギリス軍に正式採用された事が、元祖トレンチコートと称されるようになった一番大きな要因だと言われています。
アクアスキュータム(Aquascutum)以外にトレンチコートの元祖と言われるバーバリー
創立はアクアスキュータムの方が早い
英国の2大老舗ブランドであり、トレンチコートをアイコニックガーメンツとする、アクアスキュータムとバーバリーは、正式には、どちらがトレンチコートの元祖なのかと、論争になる事も少なくありません。
どちらのトレンチコートも防水性に優れ、ロイヤルファミリー御用達のプロダクツであり、英国軍お墨付きのブランドです。
創立はアクアスキュータムの方が早く、防水加工のウールファブリックを開発したのが1853年です。バーバリーは、アクアスキュータムに遅れること5年の1856年にブランドを設立、防水ファブリックである、1879年にギャバジンを開発しています。
つまり、創立も、防水加工のファブリックの開発も、アクアスキュータムの方が早いため、トレンチコートのパイオニアブランドと称されているようです。
しかし、バーバリーもトレンチコートのパイオニア的ブランドであることは、疑う余地もありません。
アクアスキュータムもバーバリーも撥水性に優れた、ファブリックを開発し、防水性と保温性の高いトレンチコートで世界中にその名を知らしめたブランドですが、両ブランドの使用しているファブリックは、防水性に優れている点は同じですが、ファブリックとしては異なります。
アクアスキュータムは、防水ウールを開発したブランドです。つまり生地に防水加工を施すのではなく、糸の段階で防水加工を施します。防水加工された糸を紡いでできる、ファブリックが、アクアスキュータムの開発した防水ウールファブリックです。
一方バーバリーが特許申請を行った防水ファブリックは、ギャバジンです。ギャバジンとは綾織の生地の事を言います。丈夫なファブリックであるギャバジンはワークウエアに適した素材です。バーバリーはギャバジンを織り上げる前の段階で防水過去を施し、ギャバジンを完成させます。
元々丈夫に織られたギャバジンに、防水加工を加える事で、水を弾く、防水ファブリックが完成するという仕組みです。
ちなみに、アクアスキュータムの防水ウールファブリックも、バーバリーのギャバジンも特許申請がされています。
アクアスキュータム(Aquascutum)の歴史は?
1851年に紳士服店を創業
イギリス紳士が身に付けるアイテムには特徴があります。エレガントでダンディズム漂い、機能性と実用性に優れているプロダクツである事。この条件をクリアしたプロダクツが、英国紳士御用達アイテムとして、英国紳士から世界中の富裕層へ浸透していきます。
拘りが強く、絶対的な審美眼と美学を持つイギリス紳士のお墨付きを得た、プロダクツは間違いなく、一流品だと世界中の富裕層は認めています。
イギリス紳士のプロダクツを選ぶ基準を作ったブランドが、アクアスキュータムであるともいえます。
アクアスキュータムのアイコニックガーメンツであるトレンチコートは、エレガンスでダンディズムが漂うアイテムです。
そして、アクアスキュータムのトレンチコートは、防水性にも優れていました。霧雨の多いロンドンでは紳士を雨から守る、防水性に優れたコートは必要不可欠なガーメントです。
つまり、アクアスキュータムのトレンチコートこそが、英国紳士のモノ選びの基準を示したアイテムなのです。
アクアスキュータムは、1851年に仕立て職人のジョン・エマリー(John Emary)が高級紳士服店”エマー&カンパニー”をオープンさせます。
このショップがアクアスキュータムの前身となります。
高級住宅地にショップをオープンさせた、エマー&カンパニーは、貴族御用達ショップとなるまでに時間は掛かりませんでした。
ジョン・エマリーの仕立てる上質なメンズウエアは、感度の高い紳士のご贔屓ガーメンツとなります。ジョン・エマリーは、ブランドという概念を、紳士の間に浸透させることにも成功した人物でした。
ラグジュアリーブランドとして揺ぎ無い地位を獲得した、エマー&カンパニーは、英国紳士のステータスシンボルとなります。
順調に収益を伸ばしていった、ジョン・エマリーは新たなファブリックの開発を始めます。ジョン・エマリーは腕のいい仕立て職人であり、優れたテキスタイルの開発者でもありました。
雨の多いロンドンで、雨から紳士を守るガーメンツ作りに最適な、テキスタイルの研究を始めます。ジョン・エマリーは創業して約2年で世界初の防水ウールテキスタイルの開発に成功します。
1800年代最初のハイテク素材とも言える、防水ウールの完成により、雨を弾くコート画期的なコートであるトレンチコートのベースとなるコートが誕生します。
防水ウールの開発によりブランド名をアクアスキュータム(Aquascutum)に改める
ジョン・エマリーは2年の歳月を費やし誕生した、防水ウールの特許を申請します。世界初の防水ウールを使ったガーメンツを、アイコニックプロダクツにするべく、エマリーは、ブランド名をアクアスキュータム(Aquascutum)と改めます。
優れた仕立ての技巧を持つ、エマリーが仕立てる、ハイテクファブリックを使用したコートは、瞬く間に、感度の高い紳士の間で浸透していきます。
傘を差さない英国紳士にとって、雨を弾く、アクアスキュータムのコートは、求めていたガーメンツであり、英国にこそ相応しいガーメンツでした。
アクアスキュータムの手掛けるトレンチコートは、生産が間に合わない程の大ヒットを記録します。
1854年にイギリス軍の軍用コートとして正式採用
英国紳士のアイコニックガーメンツとなった、アクアスキュータムのトレンチコートは、1854年イギリス軍の軍用コートとして正式に採用されます。
防水性は勿論、防寒性にも優れた、アクアスキュータムのコートは、英国軍の将校の間でも高い評価を得ます。
将校から腕の稼動域をスムーズにして欲しいとの要望があり、開発された袖付けが”ラグランスリーブ”です。
ラグランスリーブは、アクアスキュータムのパタンナーと裁断師によって生まれた縫製技術で、ラグランスリーブの名称は、アクアスキュータムに、パターンの改善を求めた、”ラグラン男爵”に由来します。
ラグランスリーブは腕の稼動域を広げる目的と、負傷した兵士の着替えをスムースに行う目的がありました。
ラグラン男爵自身が、戦争で腕を負傷した経験から、動きやすさと、脱がせやすさを考慮した、ラグランスリーブが誕生しました。
ラグラン男爵の要望から誕生した、ラグランスリーブのトレンチコートは、すっきりとした、エレガントなデザインが人気を博し、現在もアクアスキュータムの人気のトレンチコートのデザインとして存在しています。
1895年にリージェント・ストリートにフラッグシップショップをオープン
クリミア戦争で英国軍の正式コートとしての採用や、特許を取得した、防水ウールの影響により、アクアスキュータムは、英国紳士が最も信頼を寄せる、ラグジュアリーブランドとしてその名を轟かせます。
飛躍的に成長を遂げたアクアスキュータムは、1895年、ロンドンの中心部である、リージェント・ストリートにフラッグシップショップをオープンさせます。
ロンドンの中心部にフラッグシップショップをオープンさせた事で、アクアスキュータムは、更なる顧客の獲得に成功、ロンドンで最も紳士が集うショップと呼ばれます。
エドワード7世がアクアスキュータムにコートをオーダー
アクアスキュータムは王室御用達である、ロイヤルウォラントを1897年に授かります。これにより、アクアスキュータムは、ロイヤルファミリー御用達のラグジュアリーブランドとしての地位を獲得します。
アクアスキュータムがロイヤルウォラントを授かった経緯に、伊達男としても有名な、エドワード7世が関係しています。
貴族のファッションアイコンでもある、エドワード7世は、雨を弾く、側近が着用しているコートに惹かれます。
側近が身に着けていたコートはアクアスキュータムのトレンチコートでした。雨を弾く画期的な素材と美しいシルエットに心を奪われた、エドワード7世は、アクアスキュータムでコートをオーダーします。
この事がきっかけとなり、アクアスキュータムは、イギリス王室の寵愛を受ける事になります。ミリタリーコートとしてのイメージが強かった、アクアスキュータムのコートに、よりファッショナブルな印象を与えたのもエドワード7世です。
1900年からレディースを展開
ロイヤルウォラントを授かった事により、アクアスキュータムは女性からも注目が集まります。1900年にレディース向けのコートの販売を開始します。
レディースのアクアスキュータムのコートは、婦人の政治への参加を訴えていた、女性活動家がこぞって着用、アクアスキュータムのコートは知的で強い女性を象徴するシンボルとなりました。
1914年元祖トレンチコート誕生
1914年に第一次世界大戦が勃発します。英国軍は、アクアスキュータムへコートの供給を依頼します。
クリミア戦争で英国軍の守ったミリタリーコートをアップデートしたコートが、現在のトレンチコートのベースとなるガーメンツでした。
トレンチとは、塹壕(ざんごう)を意味する言葉で、兵士が身を守る為の、穴や溝の事を指します。つまり塹壕戦で着用するミリタリーコートという意味から、トレンチコートと呼ばれるようになりました。
それまではアクアスキュータムのコートはレインコートや、ミリタリーコートと表記されていました。
クリミア戦争で活躍したミリタリーコートを遥かに凌駕する、アクアスキュータムのトレンチコートは、将校や兵士から、高く評価され、ミリタリーコートとして、絶大な信頼を得る事になります。
1948年にニューヨークへ進出
元祖トレンチコートとして、その名を轟かせたアクアスキュータムは、1940年代後半には、世界中の富裕層の間で知名度は高く、1948年には、ニューヨークへ進出します。
1940年代には、メンズガーメンツやレディースガーメンツも充実しており、英国を代表する、トータルラグジュアリーブランドとして歩み始めていました。
ニューヨーク進出を機に、ハリウッドセレブが、アクアスキュータムのトレンチコートを愛用するようになります。
ハリウッドセレブは、映画の衣装としても、アクアスキュータムのトレンチコートをピックアップ、刑事・探偵役で、アクアスキュータムのトレンチコートを颯爽と着こなしました。
トレンチコートのタフでワイルドなイメージは、ハリウッド映画で、アクアスキュータムが活躍した事がきっかけです。
タフでスタイリッシュな、ハードボイルドなイメージを定着させたアクアスキュータムのトレンチコートは、ファッションアイテムとして、世界中で急速の浸透していきます。
ハリウッドセレブやロックスターもアクアスキュータムのトレンチコートを愛用し、1950年代後半には、一大ムーブメントを巻き起こします。
2012年アクアスキュータム経営破綻
日本でも富裕層を中心に、トレンチコートが、大ブレークしていたアクアスキュータム、感度の高い紳士にはバーバリーのトレンチコート以上に、アクアスキュータムのトレンチコートは人気がありました。
1990年、日本のアパレル企業であるレナウンが、アクアスキュータムを買収します。日本での驚異的な売れ行きに目をつけての事です。
バブル景気に浮かれていた、日本企業が、海外企業を買収することが珍しくなかった、1980年代後半から90年代前半。しかし、バブルは崩壊します。
バブルの崩壊により、レナウン自体も、急速に業績が悪化します。
日本でアクアスキュータムの知名度は浸透し、売り上げも悪くはありませんでした。しかし、想像以上に業績が悪化した、レナウンは、自社の存続の為に、アクアスキュータムを売却します。
2009年にイギリスの企業に、アクアスキュータムを展開する会社ごと売却します。しかし、イギリスにも不況の波が押し寄せます。
レナウンが、アクアスキュータムを売却した先は、大手のハロルド・ティルマングールプでしたが、持ちこたえる事ができずに、2012年、アクアスキュータムは経営破綻します。
アクアスキュータムほどの歴史のあるラグジュアリーブランドでさえ、倒産する事実に、多くのファッション関係者は肩を落としました。
アクアスキュータム(Aquascutum)の現在は?
日本ではレナウンがアクアスキュータムを販売
2012年に経営破綻に陥った、アクアスキュータムですが、現在も、トレンチコートをメインにメンズ、レディース共に、トータルウエアが揃います。
日本に於いては、レナウンが、香港の企業から、長期マスターライセンスを受け、アクアスキュータムの販売を行っています。
現在は百貨店での販売がメインのアクアスキュータムですが、品質の高さは、従来どおりです。紳士御用達のラグジュアリーメンズブランドとして産声を上げたアクアスキュータム。
元祖トレンチコートブランドであり、英国の至宝とも称される老舗ブランドが、完全復活を遂げる日を多くの富裕層やファッショニスタが心待ちにしています。
防水ウールという画期的なファブルックを開発し、水を弾く驚異的なコートでイギリス中を富裕層を虜にしたアクアスキュータム。
老舗ブランドの若返りや、復活が取り上げられる、現在のファッション界、新生アクアスキュータムの華麗なり返り咲きに、世界中のファッショニスタや、ファッションエディターは期待しています。

- name. hansu719
- ショップバイヤー、スタイリストを経てフリーライター兼シンガーソングライターが生業です。ハイブランドからストリートstyleまでラグジュアリーな香りのするstyleが好みです。